短編「ある日のこと」
確かそれは日曜だったか、幼稚園生の私は父と小学校の校庭で自転車の練習をしていた。
補助輪付きでよたよたしながら、何度も転げながら恐怖心との戦い。
さながら勇者ともいわんが。
一瞬、左右の補助輪に触れることなくスィーっと気持ちよく進んだ。
その時の達成感たるや、なかなかに興奮しきっていた。
嬉しさは家に帰っても冷めやらず、ばあばに電話でこう話していた。
「今日ね!自転車で2メートル乗れたよ!」
ばぁばは嬉しそうにでも穏やかに
「良かったね~」
詳しい会話はあまり覚えていない。でも、それがとてつもなく嬉しかった。
補助輪付きでも、2メートルというのがどれくらいなのかはわからないけれど、純粋に自転車に乗れたことをほめてもらえたのは嬉しかった。
などと、ばぁばが亡くなってから4年経った今、思い出す。
初めて自転車に乗れたのはいつだったかと思い出していた日のことだ。
あれ以来自転車って楽しいと思い続けているが、原体験はこれだろう。
今は亡きばぁばが空や風となり私の旅路を見守っていくれていると思うと、いつかまたほめてくれるような気がするのだ。